「『おくりびと』の孤独死のシーンがトラウマで観られない」「ああいう腐乱した死体って、葬儀屋が軽装で片付けるもの?」「特殊清掃業者とか警察がやるものでしょ?」――そんな疑問をお持ちの方に向けて、映画描写と実際の日本における「孤独死」「葬儀屋」「特殊清掃」の関係を整理した記事です。
映画『おくりびと』が描く死と葬送の世界
この作品では、故人の遺体を清め、棺に納め、家族に向き合う「納棺師(納棺師)」の姿が丁寧に描かれています。([参照]Wikipedia – Departures (2008 film))
ただし、映画内で描かれる儀式的な場面は、実際の日常の葬儀業務の全てを代表しているわけではありません。例えば、この「納棺儀式」は、日本では比較的限定的に行われる専門的な儀式とされています。([参照]Wikipedia – 納棺師(Nōkanshi))
孤独死/腐乱死体と“誰が対応するか”という実務の流れ
日本における〈孤独死=誰にも発見されず長期間放置された遺体〉は、警察・自治体・特殊清掃業者・葬儀社のいずれかが関与する可能性があります。例えば、遺体発見後に大量の体液や腐敗臭が残る現場では、一般の葬儀社ではなく専門の「特殊清掃業者」が入るという報道があります。([参照]Reuters – Clean‑up crew on hand to spruce up Japan’s ‘lonely death’ apartments)
それに対し、映画のような納棺処理を行う葬儀社・納棺師は、腐敗が進む前の比較的処遇が整った遺体を扱うことが一般的で、劇中の演出は「理想化された葬送儀礼」であるという指摘もあります。([参照]Old Woman in Feature Films – Departures (2008))
実例:孤独死清掃業者の現場から学ぶ“現実”
たとえば東京都内では、賃貸アパートで1か月以上発見されなかった死体のあった住居を、専門清掃会社が数時間~数日かけて処理する例が紹介されています。([参照]Al Jazeera – The woman who cleans up after ‘lonely deaths’ in Japan)
このような現場では、清掃スタッフが防護服やマスクを着用し、床材や壁紙に浸透した体液や腐敗物を除去・消臭・除菌する“特殊清掃”が行われています。一般の葬儀業とは、業務の性質・必要装備・作業時間ともに大きく異なります。
映画と現実のズレを認識すると観賞も変わる
映画『おくりびと』では、腐敗状態が深刻化した遺体を扱う描写は控えめにされており、むしろ「丁寧に清め・美しく納める儀式」が強調されています。つまり、映画の影響で「一般的に葬儀屋が軽装で腐乱死体を片付ける」と誤解する可能性があるのです。
実際には、腐敗進行度合いや発見時の状況に応じて「警察による検案」「特殊清掃業者による現場対応」「葬儀社への引き継ぎ」が段階的に行われることが多く、現場の状況次第で“誰が・どこまで・どう処理するか”が変わります。
まとめ
映画『おくりびと』の孤独死・納棺・葬送シーンがトラウマとなるのは自然なことです。その上で理解しておきたいのは、映画の描写はあくまで儀式的な側面を美しく描いたものであって、腐敗が進んだ孤独死体の処理には、通常「特殊清掃業者」「警察」「葬儀社」という複数の専門が関与しているという現実です。
もし観賞後に不安が残る場合は、「どの段階を描いていたのか」「自分が苦手に感じた部分はどのような“現実対応”であるのか」を整理しておくことで、安心して作品と向き合えるかもしれません。


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